つらさを乗り越える中にある深い学び
- 公開日
- 2018/03/12
- 更新日
- 2018/03/12
桑野小の今
寒さがきびしい時期は、氷や霜柱、雪などを経験する時でもある。ある園の子どもたちは、ゴム手袋に水を入れ、一晩屋上において置いた。「どうなっているかな」みんなで見に行くと、手袋の中は硬く凍っていた。片方にはさみを入れて取り出すと、見事な形の氷が現れた。子どもたちは喜びの声を上げ、目を輝かせた。保育者は、それをそっと机の上に置いた。触ってみたい子どもたちに、保育者は「そっとだよ」と声をかけた。一人の女の子が触ったとたん、その氷は滑って崩れ、壊れてしまった。「あっ」。みんなの顔がこわばった。その女の子は、あわてて壊れた氷を集めようとした。そして、指の形をした1本の氷を持ち、うらめしそうにみつめた。その時、後ろから一人の男の子が、「現行犯逮捕だ」と声をだした。それは、日ごろ刑事ごっこで使っていたせりふだった。しかし、その言葉は、女の子の心に刺さった。保育者は、わざと壊したのではないことを代弁し、伝えている。しかし、男の子もやるせない気持ちがおさえられず、言い合い、にらみ合いになった。
保育者は、女の子を抱きしめ、その場を離れた。女の子も頭からフードをかぶって部屋に入る。この時は、彼女は心痛む思いと共に、氷の扱いについて体験のある学びをしている。同時に、男の子も、何気ない一言がどれほど友達を傷つけるか学んだだろう。共にやるせない気持ちを抑え、「またやろう」と希望に変えることの大切さを、他の子どもも含めて学んだに違いない。
深い学びは、楽しい探究だけではない。時につらい経験を乗り越えようとする中に、子どもの実存と切り結ぶ深い学びはある。氷の冷たさを超える子ども同士の温かな心の通い合いが、このクラスでは強まったに違いない。
(掲載 東京大学大学院教授 秋田 喜代美 さんより)