東井　義雄　さんの詩を紹介します。

　　　小さい勇気こそ

人生の大嵐がやってきたとき
それがへっちゃらで　のりこえられるような
大きな勇気がほしいには　ほしいが
私は　小さい勇気こそほしい

もう５分くらい寝ていたっていいじゃないか
今朝は寒いんだよと
あたたかい寝床の中にひそみこんで　わたしにささやきかける
小さな悪魔をすぐやっつけてしまえるくらいの
小さな勇気がほしい
明日があるじゃないか　明日やればいいじゃないか
今夜はもう寝ろよと　机の下からささやきかける
小さな悪魔を　すぐやっつけてしまえるくらいの
小さな勇気こそほしい
紙くずが落ちているのを見つけたときは
気がつかなかったというふりをして
さっさといっちまえよ　風邪ひきの鼻紙かもしれないよ
不潔じゃないかとよびかける　小さな悪魔を
すぐやっつけてしまえるくらいの
小さな勇気こそ　私はほしい
どんな苦難ものりきれる大きな勇気も　ほしいにはほしいが
毎日小出しに使える　小さな勇気でもいいから
それが　私はたくさんほしい
それに　そういう小さな勇気を軽蔑していては
いざというときの
大きな勇気をも　つかめないのではないだろうか
　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　＜東井　義雄　詩集より　出典＞